「なんとなく」を味方にする。行動経済学で見直す日常の判断

行動経済学の本をモチーフにしたアイキャッチ画像。「なんとなくを味方にする」という言葉が添えられている。 スキルアップノート

人は1日におよそ5万回の意思決定をしているのだとか。
そう思うと、選び方ひとつで暮らしの流れが少し変わっていくのも、なんだか納得できる気がします。

行動経済学は、そんな“人の気分と選択”の関係をやさしく解き明かす学問です。
知ることで、日々の判断を少し穏やかに整えられるようになる——
そんな暮らしの知恵のひとつだと感じています。

行動経済学とは?

私たちの心は、「正しいと分かっていること」と「ついやってしまうこと」のあいだで、
いつも揺れ動いています。

たとえば——
「今日こそ片づけよう」「明日から勉強しよう」と思っていても、つい後回しにしてしまう。
これは、行動経済学でいう「現在バイアス」のひとつです。

心理学と経済学の間にあるこの学問は、
“人がなぜそう行動してしまうのか”という“非合理の理由”をやさしく解き明かしてくれます。
「どうすれば行動できるのか」「なぜ迷うのか」。
それを知ることで、自分を責めずに向き合うことができるようになる。

「知識が増えるほど、行動できなくなることがある。」
学ぶことで安心できる反面、
“間違えたくない”“損をしたくない”という気持ちが強くなることもあります。
でもそれって、行動経済学でいう“損失回避性”そのものなんです。
知ることと、動けなくなることのあいだにある、この不思議なギャップ。
きっと誰の中にもあるものだと思います。

私たちの“なんとなく”に潜む心理

私たちは日々、無意識のうちに“なんとなく”選んでいます。
でもその「なんとなく」には、ちゃんと理由がある。
行動経済学では、こうした思考のクセをバイアスと呼びます。
ここでは、暮らしの中でよく見られる3つの“心のはたらき”を見ていきます。

買い物編:「お得」に感じるのは、脳の錯覚かも

「2,000円→1,780円」と表示された価格比較のイラスト。脳が最初の数字で安さを判断してしまうことを示している。

「通常2,000円 → 今だけ1,780円」と表示されると、
私たちは「安くなった!」と強く感じます。
でもこれは、アンカリング効果損失回避性の組み合わせ。

一度“2,000円”という基準を見せられることで、
「1,780円=得をした」と脳が錯覚するのです。
さらに、“1”から始まる端数価格は、
「1,000円台だから安い」と錯覚させる効果があります。

 

広告編:数字の“見せ方”に惑わされる

「1000mg」と「1g」の表記差や「87%」のグラフが並ぶイラスト。数字や表現によって印象が変わることを表している。

「1000mg配合」と書かれていると、
「なんだかたっぷり入っていそう」と感じる。
でも、1gと同じ量です。
これも表現バイアスという心理。

また、「使用者の87%が実感!」という言葉も同じ。
サンプル数が明記されていなくても、
「みんなそう感じてるなら間違いない」と安心してしまう。
これは同調効果プロスペクト理論の影響です。

 

家事・行動編:「あとでやろう」は心の節約

「あとでやる」と「今日やる」を比較するイラスト。行動経済学の“現在バイアス”をわかりやすく描いている。

「あとでやろう」「明日こそやろう」──
この“先延ばし”も行動経済学で説明がつきます。
それが現在バイアス
私たちは、将来の自分を少し理想化して信じてしまうのです。

でもこのクセは、知るだけでも効果があります。

「今やらなきゃ」ではなく、「未来の自分を助ける」と考える。
そう思うと、自然と動ける瞬間が増えていきます。

暮らしの中の「なんとなく」は、ちゃんと理由がある。
行動経済学を知ってからは、
「これは今の私に必要か?」と一度立ち止まれるようになりました。
しっかり判断できることで、気持ちまで穏やかになります。

行動経済学を暮らしに活かすコツ

行動経済学を知ることで大切なのは、
「完璧にコントロールすること」ではなく、
“気づいて、選び直せる自分になること”。

学んだ知識を暮らしにやさしく取り入れるには、
次の3ステップを意識してみてください。

Step 1:その「お得」、本当に得してる?

買い物のたびに感じる“今だけお得”の言葉。
それは、私たちの中にある損をしたくない心理(損失回避性)を刺激しています。

本当に必要かどうかより、“逃したら損”という気持ちが先に立つ。
でもその心理を知っていれば、落ち着いて選べるようになります。

買わないことも、立派な「選択」。

Step 2:「やる気」は作るより、導くもの

「やる気が出ない」と悩むとき、
実は自分を動かす環境のほうに鍵があるかもしれません。

行動経済学では、人は“合理的に”ではなく“感情に従って”動く存在。
だから、環境やきっかけで自然に動けるように整えるほうが、努力よりもずっと効果的です。

💡たとえば

  • 目につく場所にメモを貼る(視覚的リマインド効果)
  • 最初の1分だけやる(行動ハードルを下げる)
やる気は「つくる」より「導く」。
無理せず動ける仕組みが、続く力を生みます。

Step 3:「正しさ」より、「らしさ」で選ぶ

情報があふれる時代。
「損しない」「間違えない」ことを意識するほど、
選ぶことが苦しくなることがあります。

でも行動経済学は、
“人の非合理さ”を否定するための学問ではありません。
むしろ「人は感情で動く」ことを前提に、
自分らしい選び方を見つけるための知恵です。

知識は、選択をしばるためではなく、自由にするためにある。

情報があふれる時代こそ、“自分の基準”を持つ

毎日のように新しい情報が流れ込み、
「これが正しい」「これがお得」と誰かの声があふれる時代。
だからこそ、自分の基準で選ぶ力が大切になっています。

行動経済学を知ることは、
「損をしないための知識」を増やすことではなく、
自分の感情や選択のクセを理解するための知恵。
その知恵があれば、周りに振り回されずに、
“私にはこれが心地いい”という選び方ができるようになります。

正しさは変わっても、心地よさは自分の中にある。
情報に迷う時代だからこそ、基準を外ではなく自分の中に持とう。

行動経済学は、暮らしの中で迷わないための地図ではなく、
迷っても自分で歩いていけるためのコンパス。
学びは、誰かの正解をなぞるためではなく、
自分らしい判断を重ねるためにあるのだと思います。
でも行動経済学は、“人の非合理さ”を否定するための学問ではありません。
むしろ「人は感情で動く」ことを前提に、
自分らしい選び方を見つけるための知恵です。

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